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<ノベル>
act.1 接触
暗闇が晴れた場内は、ひどい有様だった。
煌びやかな飾りは見るも無惨に破壊され、机や椅子はまとめてなぎ倒されている。
足元に幾つか転がるプレミアフィルムは誰だったものなのか。
「結婚式をこんな風に使うなんて……許せない!」
対策課から急いで駆けつけた新倉アオイは怒りを隠さずにそう言った。ついこの間友人が結婚したばかりとなればなおさらだ。
「趣味悪ぃよな。っと、見た所何もないようだが……」
セバスチャン・スワンボートの言うように一見荒らされただけの会場には、隠し通路がある。これは浚われた小嶋雄がブログに載せた情報だ。彼のブログには混乱前の和やかな状況はもちろん、混乱の最中の、例えば空昏が激しく抵抗している様子等も載せられている。
能力と情報を総動員すれば、入り口はあっさりと見つかった。
ウィズが全員に無線を配り、装飾で偽装された扉を開ければそこにはぽっかりと口を開ける暗闇が。そして。
「グギ……ギ……」
開いた入り口から、数体のゾンビが這い出してきた。
大して強くもないそれらはルドルフのキックであっさりと崩れ落ちたものの。
「! こいつら――」
セバスチャンは見た。彼等の生前の最後を。
「最近の事件で行方不明になってた奴らだ」
浚われた後、ミーサはマジシャンに姿を変えそのまま敵の内情を調べていた。巻き込まれには慣れっこなので、どうせなら色々聞き出してやれなノリである。
人質相手だからか、彼等は簡単に口を割った。あまりにあっさり手の内を明かされると逆に嘘をつかれている気もする。
「やけに簡単に話しますね」
「別にばれても困らないからさ。人質と爆薬をセットにすれば、嫌でも人を割かなければいけないだろ?」
そう、この教会での事件は盛大な陽動、そしてそれは成功していた。あくまで陽動は、だが。
小嶋は捕まった後も隙を見てはブログに情報を上げていた。ヴィランズ達も陽動になると考え放置していたのだが、その油断から地下迷宮の地図を撮影することに成功され、流石にマズイとヴィランズの1人が飲み物片手に小嶋に声を掛けた。
「こんな狭苦しい所に押し込んだ詫びってわけじゃないが、一杯やらないか?」
「いいですねー」
アルコール臭のする飲み物を手渡された小嶋は、言われるがままに口を付けた。
ヴィランズは小嶋に見えないようにやりと笑い、彼を地下迷宮へと転送した。
act.2 探索
「こんな事になるなら、俺もついて行きゃぁ良かった」
後輩の流鏑馬明日に同行しなかった事を悔やみつつ、桑島平は少し遅れて教会にやってきた。銀幕署の同僚達と捜査しながら、自分は明日やアオイとの情報交換を欠かさない。
「おまえら、無茶すんじゃねぇぞ!! すぐにそっちに行くからな! バッキー、ちゃんと使えよ!」
相手が耳を痛めそうな勢いで釘を刺し、桑島は迷うことなく地下迷宮に乗り込んだ。
ギャリックは地下迷宮の地図をウィズから受け取るやいなや中央の地下聖堂に突撃した。
途中で待ちかまえていた遊撃班は大半が素手で吹き飛ばされた。幽霊系のスターには物理攻撃は効かなかったが、逆に足止めされることもなかった。
地図に示されたポイントの扉を迷うことなく蹴り破る。
「人の恋路を邪ぶぐぁっ」
「オラオラオラー。祝儀ぶんどって悪さ企んでるふてえ野郎はどこだーっ。ぶっ飛ばしてやる!」
勢いで誰かを吹き飛ばしたが、目の前にいる人物の方が今は重要だ。
「ずいぶんと早い到着で」
「てめぇが親玉か」
「いかにも」
ギャリックと相対した瀬室カンヌが指を鳴らすと、聖堂の置くからわらわらとゾンビや暴走した参列者が現れる。
少なくとも堅気に武器は使えねぇと素手で殴り飛ばしていると、ウィズから無線が入る。爆薬と連動しているからカンヌはまだ倒すなと。
「――無茶言うな、こっちゃ大群相手にしてんだぞ」
無線に怒鳴り返しながら腐乱犬に蹴りを入れる。
文字通りの孤軍奮闘。でも、どうにかしなくては。
ギャリック以外のメンバーは小嶋のブログとセバスチャンの過去視の情報を元に、まず南の地下牢を解放した。
簀巻き状態の空昏の拘束を解きながら、東と西の2手に分かれる。
「桑島のおじさん達も来てるって」
無線から聞こえる怒鳴り声に苦笑しつつ、地図を片手にそれぞれのルートを急ぐ。単身突撃したギャリックのためにも、速やかに爆薬を解除しなくては。
アオイとファレル・クロスは順調に南西の支柱まで辿り着いた。
敵の大半はファレルが空気の壁で閉じこめればそれで事は済み、幽霊系の敵はアオイのスチルショットとファレルのサイコキネシスで対処できた。
幸い、爆薬はTNTだったのでファレルの能力で簡単に無力化することが出来た。
「南西支柱、クリアしました」
無線で連絡を取り、続いて西の地下牢へ向かう。しかしそこで、2人は足止めを食らうことになる。
ルドルフとウィズとセバスチャンは南東の爆薬を解除し、続いて東の地下牢を解放していた。物理攻撃に偏ったメンバーなので幽霊には多少苦戦したが、桑島達銀幕署のメンバーとも合流し順調にここまで辿り着いた。
持ち前の器用さで先程の爆薬解除に続いて牢屋の鍵も手早くウィズが開ける。ルドルフがカワイ子ちゃん優先で救出する中、桑島は明日の姿を見つけて駆け寄った。
「大丈夫か、明日」
「大丈夫よ……それより、状況は?」
明日は招待状が来た時点で怪しいと思い、あえて出席したら予想通り事件が起きたので内情を探ろうとあえて誘拐されていた。収穫はそれなりにあったが、監禁されてしまい自ら動くことは出来ないでいたのだ。
「……そう、それなら私は聖堂に行くわ」
「いや、俺達も爆薬の方が良くないか?」
聖堂に向かおうとする明日を桑島は一度は止めた。結局は桑島も一緒に聖堂に向かうことになったのだが、桑島には少し不安もあった。この迷宮、敵の約半数が死霊系なわけで。実は恐がりな明日は果たして大丈夫なのだろうかと。
実際どうだったのかは、本人達のみぞ知る。
東の地下牢から北上したメンバーは、それまでの敵に加えて少し様子のおかしい、しかし普段良く街で見かける人達にも襲われるようになった。
幸い襲撃が散発的なので苦戦はしなかったが。
「何か飲まされたみたいだな」
セバスチャンの過去視で原因を突き止めたのは良いが、そこから先での戦闘ではヴィランズなのか暴走状態なだけなのかをわざわざ判別しないといけない場面も多々あった。
とはいえ進行自体は順調で、その後北東の爆薬も解除し、北の地下牢では捕らえられていたエンリオウ・イーブンシェンをメンバーに加えた。
こちらはいたって順調、なのだが。
「西ルートはあれきりか」
南西の爆薬解除の連絡を受けたきり、そちらとの連絡が途絶えていた。
そちらも気になりつつ、エンリオウの魔法でよりスムーズに北西の爆薬解除までこぎ着けた一同はギャリックへ爆弾解除完了の旨を伝えた後、聖堂と迷ったが先に西側地下牢に向かった。
「あの鳩、結構役に立つじゃん」
南下しながらそんなことを言っていたウィズだが。
「何で皆俺に豆ばっかり勧めるのー」
「ちょ、鳩、おまっ」
当の本人は西の地下牢前で暴走していた。
薬を飲まされてここに送られた小嶋は暴走の勢いでロケエリを展開、迷路の一角は敵味方関係なく問答無用で踊り続けるカオス空間と化していた。
幸い、既にかなり時間が経っていたのか程なくロケエリは解除された。
地下聖堂での戦闘は佳境に入っていた。
暴走していた市民達はギャリックが気絶させた後程なくやってきた警察が保護し、明日と桑島の加勢もあり雑魚はかなり片づいていた。
「皆、真面目に戦っちゃって楽しーね、ふふ、あはは」
飾り窓のひさしに腰掛け文字通り高みの見物をしている湯森奏が茶化すようにそう言っているが、実際真面目にやらないと危ない程度にはカンヌは手強かった。各種属性の魔法は強力で動きも素早く、銃とサーベルで捌きつつも他の人達を庇うような戦い方をしているギャリックは少なくない手傷を負っている。
「くそっ、まだか?」
そろそろヤバイぜ、とギャリックが思ったまさにその時、爆薬全解除の一報が入る。
「どぉぉりゃぁぁぁ」
それを聞いてこれまであえて抑えた戦い方をしていたギャリックが一気に突っ込む。
桑島は援護を兼ねてカンヌの持っている杖の宝石部分をピストルで撃ち抜いた。
「グォォォォォ」
杖の石を割られたカンヌは怪物のような叫びを上げた。そこにギャリックの攻撃が叩き込まれる。
カンヌだったものはいともあっさりと吹き飛んだ。体中から何か光も溢れている。そして。
「あっ、パル」
明日のバッキー、パルはヒップバッグから飛び出し、そのままカンヌの持っている杖にかじりついた。
「えっ?」
そのまま杖を飲み込んだパルはフィルムを吐き出し、カンヌだったものは膨れあがり腐った合成獣の姿になった後にはじけ飛びフィルムになった。
どうやらキマイラゾンビを魔法で変化させ、杖のスターに操らせていたらしい。
つまり、今倒したのは偽物。それでも、教会地下での事件はこれで殆ど解決された。
act.3 迎撃
「よし。突撃班行くわよ」
聖堂にギャリックが到着した頃、隠し通路の魔法陣前で突撃班は気勢を上げていた。
「それはいいのだけれど、リオネには見抜かれているようだよ?」
そこに待ったをかけたのはヘンリー・ローズウッド。彼はカンヌ達の計画に興味を持って密かに協力していたのだ。
「だったら、先陣は彼等に切って貰いましょうか」
アリスはそう言って、暴走状態の市民達を魔法陣から送り出した。
自然公園で歌の練習をしていた沖田フェニックスは、目の前に突如現れた集団に邪魔をされたとぶち切れて勢いで抜刀したのだが。
「お前ら喧嘩売ってんのか」
「剣なんて買うものですかっ」
よくよく見れば目の前にいるのは普通に街で見かける人達。真っ先に出てきた人は確か市役所に居たような。というかバンドメンバーの近藤マンドラゴラも混ざっている。皆様子はおかしいが。
「俺はゲリラライブする為にここに居るんだー!」
――それほど変わらない人もいるか。
ともかく、予想外の展開に一瞬戸惑った沖田は暴徒に飲まれかけたがここで嬉しい誤算が起こる。
「行くぞ沖田君、今日は2人でゲリラライブだ」
そんなことを言いながら近藤はロケーションエリアを展開、周囲を強制的にライブに巻き込んだ。
市役所からやってきた太助やシキ・トーダやコレット・アイロニーに偶然通りがかって何の騒ぎかとやってきたブライム・デューンも、本人の意思とは無関係にノリノリでライブに参加するハメになった。
――地下と似たような展開なのはただの偶然だ、多分。
「人選ミスじゃないのかい?」
ヘンリーが冷静に告げる。
どうやってかは知らないがヘンリーが地上の様子を見てきたのだが、混乱させるどころか後続も含め足止めされているらしい。
「聖堂もやられましたね」
カンヌも冷静に地下迷宮の様子を告げる。
「ヘンリー、ロケエリが切れたら知らせて。悔しいけどそれまで待つしかないわ」
「了解。まあそれまでに後ろから来るかも知れないけどね」
地下探索メンバーは西の地下牢に集まっていた。
ここにいたミーサの話では、この部屋の隠し通路に敵の本隊が居るらしい。
まだ元気なメンバーを先頭に隠し通路に潜入すると、程なくゾンビがひしめき合う森が。隠し通路潜入を察知したカンヌがロケエリを展開して待ちかまえていたのだ。
「これはまた大層なお出迎えだねぇ」
エンリオウはのほほんと言いながら、瞬時に魔法で手前のゾンビ達を一掃した。
だがゾンビ達は、足元から次々とわき出してくる。
自然公園の一角は約1時間に及ぶライブからようやく解放された。
近藤のソロの間に事情を聞いた沖田がロケエリを継続発動させたのだ。
そして一帯はちょっとしたホラーな状態にもなっていた。ハードなノリはゾンビ隊の脆い体には厳しかったのか、ヘドバンや拳突き上げなどの度に頭が落ちたり腕が飛んだりと次々に自壊したため、フィルム化しなかったゾンビの残骸があちこちに散乱していたのだ。カンヌが地下の迎撃に回ったのもこの現象が理由だったりする。
この間に薬が切れた人も多く、残りもブライムやシキが気絶させて太助がスライムの体に取り込むという連携で無害化させていた。
ヴィランズも太助の体に進行を阻まれている間に各個撃破されていて、残るはアリスと数体のモンスターのみになっていた。
そのアリスに、コレットは話しかけた。
「どうして市役所を狙ったの?」
「ルールの象徴だからよ、私達を排除するね」
「そんな、一緒に暮らす方法だって――」
「じゃあ貴方、危険な外来種と一緒に暮らせる?」
その言葉と共に、アリスがロケエリを展開する。まるで自分がそれであるとでも言うかのように。
「勝手に呼び出されて、危険だからって排除されるのが私達なのよっ」
「これっち、危ない」
とっさに太助がコレットを抱え上げる。その足元からはまさに泥の腕が這い出す所だった。
そしてアリスは。
「何だ、こいつは」
突如現れた(実はヘンリーが奇術で出した)泥に埋もれたかと思うと、泥の巨人と化した。
「あははっ、まだ終わらない――」
が、次の瞬間アリスの体は炎に包まれた。
地下の足止めはきっかり30分で終了した。
ロケエリが切れたカンヌは、そのまま地上への魔法陣へと急ぐ。
足止めされていたメンバーも残り少ないゾンビを倒しながら、カンヌにも追撃を入れながら後を追った。
そして。
地上に出たメンバーが見たのは見知った顔と対峙する泥の巨人。
エンリオウが魔法で炎を放ったのはとっさの行動だった。すかさずファレルが土中の油分を表層に集めて火力を上げる。頭部にはスチルショットが撃ち込まれ、胴体には銃撃が浴びせられる。
銀幕市民達の挟撃に、崩れ落ちるアリス・ゴーレム。
「くっ、アリス――」
「人の心配しとる場合かいっ」
ある意味ライブをはちゃめちゃにした首謀者の登場に今度こそ怒りを叩き付ける沖田。地下戦闘で既に手負いだったカンヌはそれが止めとなりフィルムと化した。そして。
「ふふ……忘れないで。この街がこのままである限り、私達みたいな存在はいくらでも出てくるんだから……」
その言葉を最後に、アリスもまた砂に埋もれたフィルムと化したのだった。
「面白かったよ。でも、コインは常に表が出るわけじゃない」
結末を見ていたヘンリーは、そう呟いてその場を去った。
彼が立っていた桜の木は、そのつぼみを色付かせ咲き誇るタイミングを見計らっていた。
かくして、彼等の市役所襲撃計画は潰えた。一部の人達に微妙な感情を残して。
彼等が意味を残せたかどうか、答えが出るのには時間がかかるだろう。
だが、その前に。
この事件から少し後、銀幕市はその存亡を賭けた大いなる脅威と向き合うことになる。
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クリエイターコメント | ということでこの事件はお花見の前に起きました。 うっかり場所が被って「しまったぁ」と思ったりもしたのですが。
参加して下さった皆様、ここまで読んで下さった皆様、 どうもありがとうございました。 市役所襲撃計画も阻止され、誘拐された人達も殆どが無事戻ってきたようです。 多少の犠牲は出てしまったようですが、おそらく最小限で済んでいるでしょう。 ちなみにゾンビの残骸ですが、公園整備の人達がちゃんと処理したようです。 腐乱死体を見ながらのお花見はさすがにアレですし。
それでは、今回はこれにて失礼します。 |
公開日時 | 2009-04-07(火) 19:00 |
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